体がきつくなった。後を継ぐ人がいない。農業をやめることを考え始めたとき、何から手をつければよいのか分かりにくいと思います。
手続きは大きく4つに分かれます。税務署への届出、農地、年金や交付金、そして農機具や施設の処分です。窓口がそれぞれ違うため、まとめて片づく話ではありません。
この記事では、公的な手続きの中身と、進める順番の目安を整理します。個別の可否は自治体や税務署で扱いが変わるため、最後は必ずご自身の地域の窓口でご確認ください。
- 税務署へは個人事業の開業・廃業等届出書を出す。青色申告をしていた人は取りやめ届も
- 提出期限は国税庁の案内で「廃業した年分の所得税の確定申告期限」とされている
- 農地の貸し借りや売買は農業委員会が窓口。制度は近年変わっているので自己判断しない
- 農業者年金や交付金を受けていた場合は、それぞれ別の手続きがある
- 農機具は最後に回さない。置いたままにすると状態が落ち、値がつかなくなる
農業をやめるときの手続きは大きく4つ
離農の手続きは、ひとつの窓口では終わりません。全体像を先に押さえておくと、抜けが減ります。
| 分野 | 主な内容 | 窓口 |
|---|---|---|
| 税務 | 廃業の届出、青色申告の取りやめ、最後の確定申告 | 所轄の税務署 |
| 農地 | 貸す・売る・自分で管理し続ける の選択 | 市町村の農業委員会 |
| 年金・交付金 | 農業者年金の資格喪失、交付金の扱い | JA・農業委員会・市町村 |
| 資産 | 農機具・施設・資材の売却や処分 | 買取業者・処分業者 |
このうち期限がはっきりしているのは税務です。農地と資産は、決めるまでに時間がかかります。
先に動かしておくと楽なのは資産のほうです。理由は後半で説明します。
農業の廃業届と青色申告の取りやめ|税務署に出す書類
農業を事業として営んでいた場合、やめるときに税務署へ届出をします。国税庁は「廃業する場合」のページで、必要な届出書を整理して公開しています。
| 対象者 | 届出書の名称 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 廃業する人 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 廃業した年分の所得税の確定申告期限 |
| 青色申告の承認を受けていた人 | 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告を取りやめようとする年の所得税の確定申告期限 |
| 消費税の課税事業者 | 事業廃止届出書 | 速やかに |
出典:国税庁「廃業する場合」/国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
「廃業から1か月以内」と書かれた情報を見かけたら
廃業届の期限を「1か月以内」と説明している記事があります。ただし現在の国税庁の案内は違います。
A1-5 のページには、提出時期として「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と書かれています。
とはいえ、早く出して困ることはありません。やめると決めた時点で出しておくのが安全です。
- 提出先は納税地を所轄する税務署長です
- e-Taxでも、書面の持参・郵送でも提出できます
- 書面でマイナンバーを記載する場合は、本人確認書類の提示または写しの添付が必要です
やめた年も確定申告は必要です
廃業届を出しても、その年の申告がなくなるわけではありません。やめるまでの収入と経費は申告の対象です。
加えて、トラクターやコンバインを売った場合、その売却は事業の所得とは別の扱いになることがあります。減価償却が終わっていない機械では、帳簿上の価額との差額が問題になります。
ここは金額が大きくなりやすい部分です。個別の判断は税理士か所轄の税務署にご確認ください。
農地は農業委員会に相談する
農地は、持ち主の一存で自由に処分できる土地ではありません。貸すにも売るにも、農地法にもとづく手続きが関わります。
窓口は市町村の農業委員会です。まずここに相談するのが確実です。
選択肢は大きく3つ
| 選択肢 | 概要 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 誰かに貸す | 担い手や近隣の農家に貸す。農地中間管理機構(農地バンク)を通す方法がある | 期間や条件は事前に取り決める |
| 売る | 買い手が農地として使う場合、農地法の手続きが必要 | 買える人に制限がある |
| 自分で管理し続ける | 耕作をやめても、草刈りなど管理の負担は残る | 荒らすと遊休農地として指導の対象になりうる |
農地中間管理機構は、都道府県・市町村・農業団体などが出資して作られた法人です。地域によっては「農地バンク」「公社」とも呼ばれます。
制度は近年動いています。令和5年4月に改正農業経営基盤強化促進法が施行され、農地の貸し借りの進め方も変わりました。
出典:農林水産省「農地中間管理機構」/同「よくあるご質問(回答)」
農水省のよくあるご質問には「農地バンクでしか貸し借りはできなくなると聞きました」という項目もあります。実際の権利移動の進め方は、この回答と農業委員会の説明で確認してください。
この記事で農地法の判断まで踏み込むことはしません。同じ条件でも地域によって扱いが違うためです。必ず農業委員会にご相談ください。
農業者年金や交付金を受けていた場合
加入していた制度があれば、それぞれに手続きがあります。放置すると、後で連絡が来ることになります。
農業者年金
農業者年金に加入している場合、農業をやめると被保険者の資格に関わります。資格喪失や脱退の届出様式は、農業者年金基金が公開しています。
相談先は、農業者年金基金のほか、最寄りの農業委員会やJAです。
出典:独立行政法人 農業者年金基金「脱退される方(被保険者資格喪失・脱退関係)」
交付金・補助金
経営所得安定対策などの交付金を受けていた場合、作付けをやめる年の扱いを確認しておく必要があります。
補助金で機械や施設を導入していた場合は、処分の制限が残っていることがあります。導入から一定期間内に売ったり廃棄したりするときは、事前の手続きが必要になる場合があります。
該当しそうな機械があるなら、売る前に交付元の窓口へ確認してください。順番を間違えると面倒になります。
農機具・施設をどうするか
手続きの中で、後回しにされやすいのが農機具です。ただし後回しにするほど不利になります。
使わなくなった機械は傷みます。エンジンをかけない期間が続くと、バッテリーが上がり、燃料系やゴム部品も劣化します。
屋外に置いたままにすれば、サビも進みます。納屋に入れて動く状態のうちが、いちばん条件がよいということです。
選び方の目安
| 状況 | まず検討すること | 参考記事 |
|---|---|---|
| まだ動く機械が複数ある | 売却。まとめて見てもらうと引き取りが早い | 農機具の買取|依頼先の選び方と売却までの流れ |
| かなり古い | 年式だけで諦めない。海外需要のある機種がある | 古い農機具は売れるのか|年式で価値はどう変わるか |
| 動かない・壊れている | 部品取りとしての評価がありうる | 動かないトラクターは売れる?故障・不動でも値がつく理由 |
| 鉄くずで出そうとしている | 重量での買取と機械としての買取は金額が違う | 農機具を鉄くずで売る前に|スクラップ価格と買取価格の差 |
| 売れないものが残った | 処分の方法と費用を比べる | 農機具の処分方法|費用をかけずに手放すには |
| JAに相談しようと思っている | 下取りと専門業者では見方が違う | JAに農機具を売る・処分する|専門業者との違い |
査定を頼む前に、機械の型式と年式を控えておくと話が早くなります。調べ方は別の記事にまとめました。
軽トラックを一緒に手放す場合は、農機具とは売り先が変わります。
→ 軽トラック買取の相場|20年落ち・過走行でも値がつく理由
進める順番と時期の目安
決まった正解はありません。ただ、順番を意識すると無理が減ります。
| 順 | やること | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 1 | 農業委員会に相談し、農地の方針を決める | やめると決めた時点 |
| 2 | 補助金で入れた機械がないか確認する | 売却を考え始めたら |
| 3 | 農機具の査定を受ける | その年の作業が終わった直後 |
| 4 | 農業者年金・交付金の手続き | やめる年のうち |
| 5 | 税務署へ廃業の届出 | やめると決めた時点でよい |
| 6 | 最後の確定申告 | 翌年の申告期間 |
農機具を3番目に置いているのは、機械が動く状態のうちに見てもらうためです。納屋にしまい込んで2年、3年と経つと、同じ機械でも評価は下がります。
また、査定は急いで決めなくても構いません。金額を聞いてから考えても遅くはありません。
農業をやめる手続きについてよくある質問
廃業届を出さないとどうなりますか
事業をやめたことが税務署に伝わらないため、申告の案内などが届き続けることがあります。
手間のかかる書類ではありません。国税庁のページから様式をダウンロードできます。
規模を小さくして自家用だけ続ける場合も届出は必要ですか
事業としての農業をやめるかどうかで判断が変わります。線引きは個別の事情によります。
迷う場合は、所轄の税務署に事情を伝えて確認してください。窓口でも電話でも相談できます。
農地を荒らしたままにしておくとどうなりますか
耕作されない農地は、遊休農地として農業委員会の調査や指導の対象になりうる位置づけです。
草刈りなどの管理負担も残ります。貸す先がないか、早めに農業委員会へ相談しておくほうが選択肢は広く残ります。
補助金で買った機械は売れないのですか
売れないと決まっているわけではありませんが、処分に制限が付いている場合があります。事前の手続きが必要なこともあります。
導入時の書類を確認し、交付元の窓口に問い合わせてから動いてください。
農機具はいつ売るのがよいですか
その年の作業を終えた直後が現実的です。動く状態が確認でき、保管による劣化も進んでいません。
使う予定がないまま何年も置くと、同じ機械でも評価が下がります。
まとめ
- 手続きは税務・農地・年金や交付金・資産の4分野。窓口はそれぞれ違う
- 税務署へは個人事業の開業・廃業等届出書。青色申告と消費税は別途の届出
- 提出期限は国税庁の案内で確定申告期限。ただし早く出して困ることはない
- 農地は農業委員会へ。制度が変わっているので自分で判断しない
- 農機具は動くうちに見てもらう。置いたままにすると評価が落ちる
税務や農地法の個別の判断は、この記事では扱いません。税理士・所轄の税務署・市町村の農業委員会にご確認ください。
農機具については、まず何がいくらになるのかを知るところからで構いません。

コメント